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「あたしの気持ちは、あの並木道で約束したときから全然変わってないわよ」

ずっとずっとあたしの隣にいた隆一。
幼なじみの男の子との大切な約束。
あたしは何年経っても忘れない。忘れるはずがない。
そして今、あたしは隆一と二人きりで台風の夜を過ごしている。

「やっぱり、台風はダメ?」

大嫌いな台風に脅えるあたしの頭を、隆一の手が優しく撫でてくれる。
何気ないその仕草が嬉しい。

「多分、今が一番激しいから、あとはどんどん弱まるよ」

隆一はそう言ってくれたけど、家を揺らすような強い風と、
雨戸を叩く激しい雨音がたまらなく怖い。
そんなとき、ふっと部屋の明かりが消えた。停電だ。
あたしは大きな悲鳴と共に隆一に抱きついていた。

「芹奈、もう大丈夫だよ。…芹奈?」

隆一の穏やかな声。
触れ合った部分から伝わってくる体温。
でも、あたしの心は不安で満ちている。

「あたし、怖いの……このままだと不安で…だからお願い……
今夜だけでいいから、一緒にいて……あたしの側にいて……!」


あたしが恐れているのは台風だけじゃない。
ううん、それはきっと台風よりももっと怖い。
台風は時間が経てばいなくなる。
でもあの娘は……。
だからあたしは目を閉じる。大好きな男の子のキスを期待しながら。


それが、雨と風の強かった夜の出来事。